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Nodファミリーの謎物語~アポトーシスから炎症へ Nodファミリーの話を中心に、アポトーシスや自然免疫、獲得免疫、細菌と生物の相互作用やそれらの破綻による病気について紹介。

Nodファミリーの謎物語 2 ~NLRと細菌の相互作用

Diary~研究編 論文の解説から、研究室での出来事や思ったこと、実験失敗談などを書き綴ってます。 随時更新


 

Nodファミリーの謎物語 2 ~NLRと細菌の相互作用

目次 

第一章  NLRの機能 第二章 NLRと病原細菌
Nod-like-receptorとは サルモネラ感染
Nod1, Nod2 EPECEHECC.rodentium感染
インフラマソームを形成するNLR ヘリコバクターピロリ菌の感染
NLRP3 ディフィシル菌感染
NLRC4 常在細菌とNLR
NLRP1  
NLRP6  
NLRP12  

 

 

第一章 NLRの機能                                              

 

Nod-like-receptorとは

腸には非常に多くの細菌が存在します。その多くは食べ物を分解して栄養を作ったり、免疫システムを強化したりと、私たちの体に有利に働く細菌であるけれども、私たちの体に害を与える病原性細菌も存在します。免疫システムはこういった病原細菌を排除するのに重要な働きをしています。特に自然免疫システムが重要であり、パターン認識レセプター(PRRに分類されるToll様レセプター(TLRやNOD-like レセプター(NLR)は細菌や内在性物質を認識し、それぞれの応答によりちがった免疫システムを誘導します。

ここでのお話はNLRに絞ります。このページではNLRの機能と、病原細菌に対する生体防御、および腸内細菌叢に対する役割についてお話しします。(nodファミリーの発見の経緯、他の免疫システムや基礎的なことを知りたい場合は「Nodファミリーの謎物語~アポトーシスから炎症へ」も参考にしてください。)

NLR細胞内に存在するタンパク質で、哺乳類では約20種類のメンバーから構成されます。。Pathogen-associated molecular patterns (PAMPs)Damage-associated molecular pattern molecules (DAMPs)といった細菌の構成成分や細胞質内タンパク質の認識にかかわる。中央にヌクレオチド重合体化ドメイン(NOD)、C末端側にリガンドを認識すると考えられるLRRN末端側にCARDPyrinといったエフェクタードメインを持つのが特徴です。NLRDAMPsPAMPsを認識すると、NF-kBMAP kinaseの活性化による炎症性サイトカインの産生や、プロテアーゼ活性化によるIL-1bIL-18を分泌がおこります。

最初におもなNLRについて分子メカニズムを中心にお話しします。

 

Nod1, Nod2        

Nod1は細菌の持つiE-DAPを含むペプチドグリカン小分子、Nod2MDPを含むペプチドグリカン小分子を、それぞれ細胞質内で認識します。LRR領域がペプチドグリカンフラグメントの認識に重要であり、結合によってコンフォメーション変化が起きるとNODで重合体化します。その後、N末端側のCARDを介してアダプター分子であるRIP2に結合し、NF-kBの活性化や、ERK,p38の活性化を起こして、サイトカインやケモカインの産生を誘導します。
さらに
Nod1Nod2は多くのメンブレンタンパク質と相互作用することがわかってきました。Nod2ERBIN ERBB2IPRIP2と共にプラズマメンブレンに集合することによってNF-
kB活性化を起こすといわれます。またNod1Nod2とも、ATG16L1によって細菌侵入部位のプラズマメンブレンに呼び寄せられ、オートファジーを誘導します。

近年、Nod1Nod2の活性化はペプチドグリカン小分子だけでなくsmall Rho GTPase RAC1の活性化を介していることが報告されました。腸内細菌の病原因子は宿主の腸上皮細胞の細胞骨格に影響を与え、細菌が細胞に結合したり細胞内に入ったりするのを促進しているが、この病原因子によるsmall Rho GTPase活性化によりNod1Nod2のシグナリングが引き起こされると言っています。

インフラマソームを形成するNLR  

インフラマソームは細胞質に存在し、プロテアーゼの一種caspase-1の活性化を引き起こすタンパク質複合体です。インフラマソームは、病原感染時、毒素など特定の病原成分を働きで活性化されるほか、アスベストなどの外来性物質、コレステロール結晶などの内在性物質によっても活性化されます。近年、こうした危険信号が病態と関わる様々な疾患についてインフラマソームの関連が相次いで報告され、疾患の病態解明、治療標的として注目を集めています。

インフラマソームの重要な役割は、炎症誘導性のサイトカインであるIL-1bIL-18の分泌です。IL-1bIL-18はマクロファージ、樹状細胞等の貪食系免疫細胞が主な発現細胞です。IL-1bIL-18は病原成分や炎症誘導性サイトカインによる刺激等により前駆体として誘導合成され、細胞質内に蓄積されます。これらの前駆体はそのままでは細胞外に分泌されず、活性もありません。IL-1b IL-18の成熟にはインフラマソーム中のCaspase-1の活性化が必要です。他の多くのcaspaseがアポトーシスに関わるのに対して、Caspase-1は基質中の4残基を中心に特異的に認識し切断するプロテアーゼでで、caspase-1は、この基質特異性でIL-1bIL-18の前駆体を切断し、 成熟型IL-1bIL-18を生成します。このcaspase-1によるIL-1bIL-18のプロセシングは両サイトカインの分泌並びに炎症誘導活性に必須であるため、IL-1bIL-18が病態に関与する炎症性疾患の多くに、インフラマソームの活性化が関係している可能性が示唆されています。

インフラマソームは、特定のシグナル認識に関わるタンパク質、アダプタータンパク質であるASC、実行分子caspase-1からなります。シグナル認識関わる分子にはNLRP3, NLRP1, NLRC4, AIM2などが知られています。

またインフラマソームの果たす役割はIL-1b, IL-18の分泌を介した炎症誘導反応だけでなく、ピロプトーシスと呼ばれる細胞死やオートファジーの誘導にも関わっていると考えられています。個々のインフラマソームについてお話しします。

 

NLRP3             

NLRP3インフラマソームは、外来性、内在性の多くのシグナルで活性化されることが知られています。この活性化のしくみについては未だ議論の対象となっていますが、インフラマソームの活性化に至る過程については3つの情報伝達系が考えられています。

まず、ATPや孔形成型毒素は細胞膜の透過性を上げ、カリウムイオン(K+)の細胞外流出を引き起こすことで、NLRP3インフラマソームの活性化を引き起こすと考えられる説。細胞外ATPP2X7受容体に結合し、Pannexin-1による孔を形成を介してK+流出を引き起こします。またK+流出はレンサ球菌のhemolysins、リステリアのlisteriolysin Oなど病原細菌の持つ孔形成性毒素によっても起こります。さらに、アルム、コレステロールやハイドロキシアパタイトなどの結晶などによるインフラマソーム活性化においてもカリウム流出はインフラマソームの活性化に必須の役割を果たしています。これらの物質で細胞膜のカリウム透過性がどのように変わるかは、よくわかっていません。

          次に、、アルム、シリカ、アスベスト、bアミロイドなどの結晶の取り込みによってリソソームの損傷を引き起こし、インフラマソームが活性化される系です。この過程でリソソーム中のプロテアーゼ、カテプシンBが細胞質内に放出されます。このとき、カテプシンBの阻害剤によりインフラマソームの活性化が抑制されるとする報告があります。しかしカテプシンBを欠損したマクロファージからもインフラマソーム依存的なIL-1bの産生が正常に見られるという、矛盾した報告があります。またカテプシンBNLRP3インフラマソームとどう相互作用するのかは全く不明です。

最後に、インフラマソームの活性化には活性酸素(ROS)の関与するとする説があります。その根拠は、ATPやアスベスト、シリカなどの結晶などによるNLRP3活性化がROSの合成阻害剤やNADPHオキシダーゼのノックダウンにより抑制されることです。ところが、NADPHオキシダーゼ欠損患者の単球から正常のIL-1bの産生が見られることから、ミクロソーム系がインフラマソームの活性化に必須なROSの発生源であるかは不明でです。一方で、ミトコンドリアもNLRP3インフラマソーム活性化を引き起こすROSの発生源として報告されています。その報告によると、ミトコンドリアに存在するレドックス感受性タンパク質であるTXNIPNLRP3活性化経路に関わるといいます。しかし、インフラマソーム活性化と関連するROSの発生源についてはさらなる解析が必要と思われます。 

NLRC4             

 NLRC4はマウスチフス菌,赤痢菌,緑膿菌,レジオネラに対する防御に関与することが報告されています。これらの細菌の感染はNLRC4, caspase-1活性化を介して、IL-1b,IL-18分泌を誘導します。NLRC4インフラマソームはフラジェリンに応答して活性化されます。このフラジェリンに対する応答はタイプIII またはIV分泌系(T3SS, T4SS)が必要であることからフラジェリンが細胞内に入ることがNLRC4の活性化に重要であると考えられています。しかし、フラジェリンを持たない赤痢菌株もNLRC4依存的にCaspase-1を活性化したり、さらにT3SSの構成成分であるrod タンパク質がNLRC4のアンタゴニストとして報告されています。最近、NLRC4は直接これらのリガンドを認識せず、フラジェリンはNAIP5rod タンパク質はNAIP2と結合してNLRC4を活性化することが示されました。 

 

NLRP1             

NLRP1の多型はマウスにおいて炭疽菌の致死因子に対する感受性と相関します。また、致死因子がNLRP1によるcaspase-1依存的IL-1b,IL-18分泌および細胞死を誘導します。一方、再構成系を用いた実験で、caspase-1の活性化はNLRP1,caspase-1dNTPおよびMDPによって起こることが報告されましたが、生理条件下でのNLRP1インフラマソームの活性化におけるMDPの役割は不明です。このように、致死因子がNLRP1インフラマソームを活性化しくみには不明な点が多いです。致死因子はカテプシンBの放出も誘導し、NLRP1インフラマソームの活性化において重要であると考えられています。

NLRP6             

NLRP6は腸の上皮細胞や、粘膜固有層(Lamina propria)、腸のMyofibroblastで高発現していて、腸疾患との関連性について最近注目を集めていますが、NLRP6のリガンドはまだ同定されていません。当初、NLRP6の過剰発現系により、NLRP6NF-kBCaspase1を活性化すると報告されましたが、その後、NLRP6欠損マウスマクロファージを用いた実験で、NLRP6NF-kBMAPKによるケモカイン、サイトカインの産生を抑制するという反対の報告がなされました。またNLRP6の欠損マウスは大腸菌やリステリア菌、サルモネラ菌の感染に耐性であることが報告されています。このように現段階では、NLRP6は宿主防御においてポジティブにもネガティブにも働くものと推測されています。

 

NLRP12              

NLRP12のリガンドもまだ見つかっていません。NLRP12は主に免疫細胞で発現していて、NLRP12が直接または間接的に細菌の成分を認識していると考えられています。NLRP12caspase1を介してIL-18を産生するともいわれ、インフラマソームの形成に働いていることが示唆されています。 NLRP12Yersinia pestisを認識して宿主の耐性に働いており、欠損マウスでは細菌感染に感受性が高いという報告があります。その一方で、NLRP12NF-kB ERKの阻害により炎症を抑制するために、細菌をコントロールすることができず、欠損マウスはサルモネラ菌の感染に耐性であるという報告があります。このようにNLRP12の宿主防御における機能は現在よくわかりません。

 

 

第二章  病原細菌とNLR                                             

 

サルモネラ感染          

サルモネラはグラム陰性菌で、人ではsalmonella entericaの感染が問題となっています。腸内細菌の全身感染、高熱、腸の出血などの症状を示し、年間、20万~60万人が死亡しています。S.tophimrium感染による症状は下痢や吐き気など腸に限定されていて4-7日ほどで回復しますが、年間約9千億人の感染報告があります。

マウスS.typhimurium感染モデルには全身感染を引き起こすモデルと腸炎を引き起こす2種類のモデルがあります。感染初期にはタイプIII分泌系のT3SS-1が関与していて、細菌が宿主の細胞内に侵入するのに働き、細菌が宿主内で生存、増幅するのにT3SS-2が関与しています。感染後期にはマクロファージに取り込まれた細菌が、肝臓や脾臓に回って増幅し、マウスは約1週間後に死亡します。

サルモネラ感染におけるNLRの役割としてはin vitroNod2がサルモネラ菌を認識し、抗菌作用を誘導したりオートファジーを誘導することが証明されています。またNod1もサルモネラ菌により樹状細胞でのNOの産生を誘導するといわれています先に話したようにNod1Nod2はペプチドグリカン小分子を認識しますが、T3SS1のエフェクターSopEによって修飾を受けたsmallRho GTPaseが危険シグナルとしてNod1に認識されるとの報告もあります。同様にほかのT3SS1のエフェクターSipANod1/Nod2を介したNF-Bの活性化を誘導することが報告されています

しかし、in vivoではNod1Nod2も全身感染に必須ではないようです。T3SS-1非依存的な条件においてのみNod1欠損マウスで細菌数の増加および死亡が認められるという報告があるほかNod1/Nod2ダブル欠損マウスやそれらのアダプター分子であるRIP2の欠損マウスでも炎症の減少、IL-17の機能の低下、腸内の細菌数増加、などがみられますが、いずれもT3SS-2のみのの発現状態の時です。T3SS1が発現していれば、これらの欠損マウスは野生型との差がみられません。これらのことから、Nod1Nod2はサルモネラ感染時、マイナーな役割しか果たしていないと考えられます。

Nod1Nod2に加え、NLRC4がフラジェリンとrodタンパク質PrgJを認識し、マクロファージや樹状細胞からIL-1bIL-18を産生します。これはT3SS-1に依存的であり、サルモネラ菌が宿主内に侵入することが必要です。一方、T3SS-2NLRC4による認識に関与しません。Caspase-1の欠損マウスではMesenteric lymph nodesMLN)や肝臓、脾臓などで細菌数の増加が認められ、マウスは死に至ります。よってCaspase-1はサルモネラ感染において生体防御に重要な働きをしていると考えられています。
しかし、
NLRC4Caspase-1活性化の主な上流因子でありながら、NLRC4の欠損マウスではCaspase-1欠損マウスのような表現型は見られません。NLRP3もサルモネラ感染時、マクロファージにおいてnon-canonicalな系を活性化するのに、NLRC4の欠損マウスと同様に、NLRP3の欠損マウスもサルモネラ感染に対して表現型をあまり示しません。またIL-1bIL-18の欠損マウスでも全身感染に遅れがみられる程度です。このことはピロプトーシスが重要な役割を果たしていることを示唆しています。がピロプトーシスによってマクロファージ内に隠れている細菌を放出し、呼び寄せられた好中球によって細菌が排除されていると考えられます。このピロプトーシスによる排除に比べて、IL-1bIL-18は細菌のコントロールにマイナーな役割しか果たしていないといえます。

 

EPECEHECC.rodentium感染   

EPECEHECC.rodentiumグラム陰性、細胞内感染性の病原細菌です。EPECEHECは人の病原大腸菌であり、EPECは主に子供で下痢を起こすものの通常complicationはおこさないのに対し、EHECの感染は軽い腸炎から劇症の出血性大腸炎まで症状の程度にとても差があります。人のEPECEHECの感染におけるNLRの役割についてはほとんど知られていないものの、それに対応するマウスの病原細菌C.rodentium感染による腸炎症モデルからNLRの役割がわかってききました。このマウスモデルでは感染34日目になると、細菌は大腸にまで広がり、細菌の数は514日でピークに達します。その後、MLN、肝臓や脾臓など全身にも広がり、大腸に感染してから34週間で細菌が除去されます。C.rodentiumT3SSにより腸へ結合し、腸上皮を壊します。

Nod1Nod2 in vitroおよびin vivo C.rodentiumを認識することが報告されています。感染初期にNod1Nod2によりIL-6を介してIL-17の産生が誘導されます。またストローマ細胞でNod2CCL2/CCR2を活性化することによって、炎症性細胞を感染部位に呼び寄せ、IL-12を介して細菌を除去すします。Nod1Nod2C.rodentiumのペプチドグリカン小分子を認識しますが、前章のサルモネラのSopEと同様に、T3SS1のエフェクターEspTも関与すると考えられています。EspTSopEと同様にsmallGTPaseに作用し、Nod1/2を介して、NF-kBの活性化やERKの活性化をします。これらにより、Nod1Nod2の欠損マウスは感染初期段階では炎症が弱いが、細菌の除去が起こらないため細菌数が多くなりその結果、感染後期ではよりひどい炎症を起こすことになります。しかしNod1、Nod2単独の欠損マウスではほとんど表現型を示さず、Nod1Nod2のダブル欠損マウスで、感染後期で野生型より腸炎が悪化がみとめられました。このことはNod1とNod2はC.rodentiumの感染に対してリダンダントであることを示しています。

またcaspase-1/ caspase-11欠損マウスはC.rodentiumの感染により腸内の細菌数の増加、腸炎、過形成が認められ、感受性が高いことが報告されました。NLRP3NLRC4の欠損マウスもIL-1bIL-18の欠損マウスと同様な表現型を示したことから、NLRP3/MLRC4/ IL-1b /IL-18C.rodentiumのコントロールに重要な役割をはたしていることが示唆されています。C.rodentiumはまた、non-canonicalcaspase-11/NLRP3インフラマゾームを活性化すると言われています。

 

ヘリコバクターピロリ菌感染   

Helicobacter pyloriグラム陰性細菌であり、50%の人の消化管粘膜でみつかる。ほとんどの人は感染していても何の症状も示さない。しかし一部の患者では細菌によって誘導される炎症反応により、ulcerを形成し、リンフォーマやアデノカルシノーマを引き起こしたりする。H.pylori はウレアーゼを産生して消化管のpHをあげることで上皮の粘度をあげて、粘膜層への侵入を可能にしている。さらにH.pyloriは修飾されたLPS、フラジェリンを発現して、TLR4TLR5による認識を逃れている。また、孔形成毒素VacAにより上皮のアポトーシスを誘導し、T細胞の分化や活性化を抑制する。免疫を抑制する一方で、H.pyloriT4SSを介したCagAの輸送によって、炎症反応を誘導する。CagAは様々な宿主免疫のシグナル伝達を阻害し、胃がんの発生に関与する(30)

遺伝子解析から、Nod1,Nod2,IL-1bの多型が胃がん発生の増加と関連していることがわかったた(31)。実際、Nod1H.pyloriのペプチドグリカン小分子を認識してNF-kBを活性化し、炎症を誘導することが確認された(32)。またH.pyloriIL-1bIL-18の産生を誘導することが確認され、Caspase-1/caspase-11の欠損マウス、ASCIL-1bの欠損マウスは野生型に比べて胃の中のH.pyloriの細菌数増加が認められた(33)。こののようにインフラマソームがH.pyloriの感染にかかわっていることが示唆されている。

 

Clostridium difficile感染        

C.difficileグラム陽性で偽膜性大腸炎を起こす病原菌です。先進国で多く、現在アメリカでは年間約50万人が感染症にかかっており、その5%程度の患者が重症化し死に至ります。さらに、患者数、重症化は年々上昇する傾向にあり、大きな問題となっています。C.difficileは健康な人も持っていることがありますが、こうした健康な人の場合、C.difficileは他の細菌によって数が少なく保たれているだけではなく、宿主の免疫が毒素の働きを押さえ込んでいます。しかし、ある種の抗生物質を投与することにより常在細菌が減少、構成が変わると、C.difficileが増殖することがあります。 C.difficileは毒素を持っていて、腸を傷つけ、炎症を起こして大腸炎を起こします

Nod1C.difficileを認識して
NF-kBを活性化しサイトカイン産生を誘導します。Nod1の欠損マウスではC.difficile感染によるマウスの死亡率が高くなりました。しかしながら不思議なことにC.difficileの細菌数や腸の傷み具合は野生型と同等でした。腸上皮が障害された時、常在細菌が体の中に侵入して全身に回り、全身性のより激しい症状を示すことがあります。これをを防ぐのに好中球が障害を受けた腸患部に集まり体への侵入しようとする常在細菌のを除ぎますが、この好中球の呼び寄せにNod1によるCXCL1CXCL2の産生が関わっていることがわかりました。一方Nod2C.difficile感染に関与しておらず、腸炎も生存率も野生型と同等でした。

またC.difficile毒素によって好中球でNLRP3/ASCのインフラマソームの活性化を介してIL-1bが分泌されます。このIL-1bCXCL1ケモカインを産生してさらに好中球を呼び寄せます。この正のフィードバックによる好中球の感染部位への誘導が、常在細菌が全身に回り全身性の炎症を引き起こすのを防いでいると考えられます

 

腸内常在細菌とNLR     

腸内細菌叢の違いは病気の感受性に影響を与えます。そこで、宿主免疫が定常状態の腸内細菌叢そのものの形成に重要であるのではないかと考えられました。NLRについても、例えば野生型マウスと比べて、Nod2欠損マウスの腸内細菌はバクテロイデス属の細菌が増えるという報告やNLRP3NLRP6欠損マウスの腸内細菌はprevotellaceaeが増えるという報告がなされましたが、他のグループは細菌叢にこのような差が見られなかったと報告しています。よって、現在のところ、NLRが腸内細菌叢に影響を与えるか明らかでありません。飼育環境は腸内細菌叢に大きく影響を与えるため、腸内細菌叢の解析にはlittermateを用いて飼育環境を同一にするなどといった注意が必要であると考えられます。 

また、DSS投与により腸上皮障害を起こすマウス腸炎誘導モデルを用いて、Nod1/Nod2欠損マウスは野生型マウスに比べて感受性が高いことが報告されています。このことはヒトで、NOD1NOD2の遺伝子多型はクローン病(UC)や炎症性大腸炎(IBDのなりやすさと関係していることと一致すします
NLRP3欠損マウスも、DSSによる腸炎や、TNDS(AOM)/DSSによる大腸がんの発生のモデルにおいて、IL-1bIL-18などのサイトカインの産生の低下により感受性が高くなることが報告されています。しかしながら、NLRP3欠損マウスはDSS耐性を示すという報告もあり意見が分かれています。またNLRP3の遺伝子多型がクローン病の感受性に影響するという報告もありますが、関係しないという報告もあり、今後さらなる研究が期待されます。NLRP6 NLRP12NF-kBAKTのシグナリングをネガティブに調節することで炎症を抑え、腸上皮細胞の修復や増殖に関与し、DSSによる腸炎の発生に対して抑制的に働くと言われていますが、まだ不明な点が多いです。

 

まとめ

このように、NLRは腸内の細菌叢や病原細菌感染をコントロールする重要な働きをしていると考えられます。 しかし、研究グループによって実験条件が違うことで、相反する結果が多数報告されていて煩雑です。また、NLRP6NLRP12についてはリガンドも見つかっておらず、他にも機能がよくわかっていないNLRが多数存在します。NLRと腸内細菌について、今後さらなる研究が期待されます。